2022/10/14

安かろう悪かろうというのは言い得て妙で、ちょっと前に買ったシリアルが恐ろしく不味くて細かくちぎった段ボールみたいだと思っていたのだったがそれも4日前ほどで、今朝はそこまで気にならないくらいだったどころかむしろ良いんじゃないかとさえ感じた。牛乳の量が味の決め手だ。なんでも慣れれば良いのだ、この寮生活にも時間通りに来ないバスにもロシア語のリスニングにも。

ところで今日は映画デーだ。午後から2本、Лендокというスタジオに併設するシアターで、新旧国内外問わずさまざまな作品を上映している。作品によって微妙に異なるけどチケット代も日本に比べればずいぶん安い。上映会場は吊るされた大きめのスクリーンにプロジェクターで投影するという設備で、まあ映画館というにはお粗末だけどそんなに悪くはない感じ。1本目はヤコブ・プロタザーノフ『持参金のない花嫁Бесприданница』(1936)だ。アレクサンドル・オストロフスキーの戯曲が基になっているとのことで、まあ典型的な文学映画だと思う。ちゃんと観ようとおもったけど、トーキーになって間もないソ連映画はほんとうに音響がひどい。なんかの論文でヤンポリスキーが、ソ連映画の音響技術がすごいひどくて70年代くらいまで同録も普通しなかったと書いてあったのを思い出した。ただでさえリスニング能力がないのにセリフを聞いているだけでも辛い感じで途中から完全に上の空だった。クライマックスで振られた男が花嫁を撃ち殺すのだが、その直前で身投げしようとしてできない花嫁の表情が良いなと思った。

2本目はジガ・ヴェルトフ『ロシア内戦の歴史 История гражданской войны』(1921)で、どうも制作当時にクローズドで一度上映されただけでそれから100年近くフィルムが失われたと思われていたらしい(cf.«Затерянная фильма»: реконструкция фильма «История гражданской войны» Вертова)。このたび発見、修復されてロシアで公開されることとなったとのことで、そのタイミングに立ち会えたというだけでも嬉しい。内容としてはロシア内戦の記録映像をテーマごとに見せていくというもので、当時はいわゆるニュース映画という意味合いがあったものだ。ヴェルトフ的と形容されるような激しいモンタージュはなく、けっこう丁寧に字幕の説明が入る。とはいえ時系列に沿っているわけではないし、途中で手書きの地図を用いた映像が挟まって、ボリシェヴィキに攻め入られて後退していくチェコスロヴァキアの軍隊の前線が示されるのだけど、その前線をヴェルトフ本人なのかわからない手がなぞっていくのが唐突でおもしろかった。あとカメラが向けられているのを多くの被写体が意識していて、中には手を振ったり笑顔を向ける兵士も少なくない。駐屯地かどこかで髭剃りや髪切りをしている様子を撮った映像で、画角に入り込んでしまったと慌てる少年兵の顔が写ったりしていた。記録映像といってもずいぶん作為や演出(被写体の側の演技・意識もふくむ)があったはずで、翻って考えると、タルコフスキーが同じように戦争を撮影した大量の記録映像のフィルムリールを見て、ようやく真実が撮られた映像に出会ったと興奮したというエピソードの意義はやっぱりかなり大きいように思う。ドキュメンタリー映像を使う際に用いられる「真実」などの語で言われようとしている何かは、カメラと被写体=俳優との関係において考えられているのではないだろうか。

1本目と2本目のあいだに時間があったので、ふたたびAmazonプライムを観ようと試みる。いくつかのVPNなどを試してみて、ようやくスムーズに観ることができた!ダウンロードもできるようになったので、カフェのWi-Fiなどを使えば、わざわざポケットWi-Fiを契約する必要もないかもしれない。『佐々木、イン、マイマイン』(2020)を観る。かなり面白かった。詳しく説明したりショットをはさまなくても、佐々木ならああするだろうなと観客を説得できるキャラクターというのはすごいと思う。監督もずいぶん若いんだなあとちょっと調べたら同作のヒロインと結婚していた。なんだそりゃ。