2022/10/19

ついお金のことが気になって、これまでに何円換金して、いま手元にルーブルがいくらあって、いくらカードに預けていて、などと計算していたら夜遅くなった。あんまり気にしたくないのだけど、やっぱり初月は諸々の手続きで出費が多くて、今後の生活費だけでなく、アーカイブ調査で遠征したり映画上映やギャラリーを周ったり、長い生活のなかでのささやかな行楽だったりを考えると、どこかのタイミングで送金しないといけない。少しでも円高傾向になったら考えよう、そもそもルーブルがちょっと高いんだよな、などと頭のなかでぐるぐると考えてしまう。

そんなことより今日は、昨夜にひきつづきドムラジオで映画を観たのだったがこれがすごかった。ミハイル・カウフマン『春 Весной』(1929)というサイレント映画の上映だった。ジガ・ヴェルトフの実弟で、本作は1922年から1930年までキエフに所在したВУФКУ(全ウクライナ写真映画局)で制作された(ちなみに『カメラを持った男』も同年にВУФКУで撮影されている)。作品は吹雪の景色からはじまってだんだんと雪解けしていき、基本的には題名どおりの進行を見せていくのだけど、もちろんそんな単純ではない。冒頭から空撮で大地の変わる様子が映されると、つづいて強烈な速度のモンタージュで自然の変化による人間の生活の転換が示されていく。泥まみれの道を歩く人々、アイスを食べる子ども、農園を耕すトラクターのタイヤの回転、隊列をつくっている少年少女たちの顔顔顔、風に揺れる麦穂、スポーツ観戦する人たちの熱狂……などなど、たまにオーバーラップやコマ落としなどの技法やスチールを挟むなどしつつ、次々にドキュメンタリー的映像が示されていくのも面白いんだけど、まあそうした映像はYouTube上でもいちおう見ることはできる(Весной (1929) документальный фильм - YouTube)。なにがすごかったかというと、今回の上映に際してつくられた音響だ。一般的にサイレント映画は後から伴奏がつけられるもので、YouTube上にも本作は数本あがっていて、いくつかの伴奏のヴァリエーションが確認できる。で、ドムラジオでの上映の伴奏はАлексей Ретинский という作曲家が担当していたのだけど、まずびっくりしたのが、会場の最後方に本人がいて、上映にあわせてリアルタイムで生演奏していることだ。何の楽器だろうと思ったけど、ホームページによると、ガラスの鐘とカーヌーンというアラブ音楽の楽器らしい。その音は、観客の後方から響いて身体をゆさぶる(最初は気づかず、なんでこんなに身体の芯にくるような響きが出るのだろうと思っていた)。くわえて、前方のスクリーン両脇にもスピーカーが置いてあり、こちらからは後方でパソコンを操作して音を流しているようだ。つまり、平面的な映像の空間と立体的にデザインされた音の空間が組み合わさっているわけだ。めちゃめちゃアクースマティックな経験じゃないか……しかも、その音響もノイズというのかなんというのか、これまで聴いたことのない音で、これがいまの「現代音楽」なのかもしれないと、そして映画における音の位相というか場所というか、映像と音の組み合わせはとても面白く、映画の制作と上映の可能性はまだまだとても大きいのだと、すっかり感動してしまった。

そういえば例のごとく授業終わりから映画上映まで時間があったので、近場のカフェで資料読みをしていたのだけど、このカフェもよかった。Civil Coffee Barという店だった。Wi-Fiもあるし、大きめの瓶で水もサービスしてくれる。あとトイレがめちゃ綺麗。